守貞漫稿で検索したほうが検索が正式名『守貞謾稿』
江戸時代後期の喜田川守貞によって記された、京都・大坂・江戸の風俗や暮らしを30年にわたって収集し、詳細に記録した百科事典(風俗誌)です。当時の庶民生活を知るための重要な文献として名前が出てきます。江戸の時代にどのように時勢や社会、生活具の情報がわかります。
ただし、年代の情報は現代とズレがあったりと、1人の人間が記したものなので、いまとなっては間違っている情報もあります。
ではここから『守貞謾稿 巻1』の序文の現代語訳になります。
原文と現代語訳(意訳)が交互に表示され、現代語訳については色を変えて表示するようにしています。さすがに、難しい言い回しや原文が読めないものがあり、意訳もしくは文脈の流れで言葉を入れたり、原文の漢字から見える漢字をあてたりしていますので、ある程度間違いがある可能性が前提となります。
『守貞謾稿 巻1』の現代語訳
概略
予文化七年庚午六月浪華ニ生レ、本族石原氏。天保十一年庚子九月、年三十一ニテ遂ニ喜田川ノ嗣トナリ、同年深川ニ閑居シ、黙シテ居諸ヲ費サンコトヲ患ヘ、一書ヲ著サント思ヒ、筆ヲ採リ机ニ対スレドモ、無学菲才、云フベキ所ナシ。
【現代語訳】
私は文化七年(一八一〇年)庚午の六月、大坂に生まれた。本来の姓は石原氏である。
その後、天保十一年(一八四〇年)庚子の九月、三十一歳のときに喜田川家の跡継ぎとなった。
深川で静かに暮らしていたころ、何もしないまま年月を過ごしてしまうことを残念に思い、一冊の書物を著そうと考えて、筆を取り机に向かった。しかし、私は学問も浅く才能も乏しいため、特に論じられるようなことはなかった。
茲ニ於テ専ラ民間ノ雑事ヲ誌シテ子孫ニ遺ス。唯古今ノ風俗ヲ伝ヘテ、質朴ヲ失ハザランコトヲ欲ス。
【現代語訳】
そこで、もっぱら庶民の暮らしに関するさまざまな事柄を書き記し、子孫に残すことにした。
ただ、昔と今の風俗を伝えることで、素朴な気風が失われないようにしたいと願うのである。
一、此冊子、天保八年以来、見聞ニ随ヒ是ヲ散紙ニ誌シ、後ニ大略諸類ヲ分チテ数冊トス。故ニ甚ダ継紙多ク、又往々白紙ヲ交ヘ綴ルモノハ、誌サント欲スルコト有リテ未ダ其正ヲ得ザルモノ、追書ノ料ニ備フ。
【現代語訳】
一、この冊子は、天保八年(一八三七年)以来、見たり聞いたりしたことを、そのつど一枚一枚の紙に書き留め、後になって大まかに種類を分け、数冊にまとめたものである。
そのため、後から継ぎ足した紙が非常に多い。また、ときどき白紙を挟んで綴じてあるのは、書き記したいことはあるものの、まだ確かな内容を得られていないため、後で書き加えるための用紙として用意したものである。
一、此書、毎処甚ダ粗密アリ。唯見聞ノ多寡ニヨル。又或ハ大書シ、或ハ細書スルモ、定例アルニ非ズ、只筆ニ随フ而已。
【現代語訳】
一、この書は、場所によって記述の詳しさに大きな差がある。それは、見たり聞いたりできた事柄の多い少ないによるものである。
また、あるところでは大きな字で書き、別のところでは細かな字で書いているが、特別な決まりがあるわけではない。ただ、そのときどきの筆の運びに任せて書いただけである。
一、古キコトハ専ラ年号ヲ記シ、即今ノ事ニハ多ク今世ト書ク。又時分ヲ記セザルモノ、多クハ今事ニ係ルト雖モ、亦往事ナキニ非ズ。事体ニ拠テ之ヲ察セヨ。
【現代語訳】
古い時代のことについては、主に年号を記している。現在のことについては、多くの場合、「今世」と書いている。
ただし、昔のことか現在のことかを明記していない記述は、たいてい現在の事柄について述べたものである。とはいえ、過去の事柄が含まれていないわけではないので、内容に応じて判断してほしい。
一、京師ト浪華ヲ合シ略スルニ、京摂等ノ字ヲ用フル人多シ。今俗ニ順ヒ京坂ト書ス。
【現代語訳】
京都と大坂を一つにまとめて略すときには、さまざまな呼び方を用いる人が多い。私は現在の一般的な呼び方に従い、「京坂」と書くことにする。
蓋シ京坂ト書スルモノ、専ラ五畿及ビ近国ニ係リ、江戸ト書スルモ亦山東諸国ニ及ブコトアリ。皆事ニ応ジテ之ヲ察セヨ。
【現代語訳】
おおむね「京坂」と書いた場合は、主として京都・大坂を含む五畿内と、その周辺の国々に関係する事柄を指している。一方、「江戸」と書いた場合でも、江戸だけでなく、関東地方の諸国にまで及ぶことがある。いずれも、記述の内容に応じて判断してほしい。
一、予大坂ニ住スコト三十年、江戸ニ移リテ後今ニ至ル十有四年、故ニ両地ノ俗ヲ知ル。然レドモ未ダ京師ニ住セザレバ、帝都ノ俗ニ委シカラズ。京坂万事相似タリト雖モ、亦異ナルコトナキニ非ズ。故ニ京坂ト称シテ専ラ大坂ヲ本トスレバ、京師ノコト異ナルアラン歟。
【現代語訳】
私は大坂に三十年間住み、江戸へ移ってから現在まで十四年になる。そのため、大坂と江戸、両方の土地の風俗については、おおよそのことを知っている。
しかし、京都にはまだ住んだことがないので、都の風俗について詳しいわけではない。京都と大坂は、あらゆる物事が互いによく似ているとはいっても、まったく違いがないわけではない。
この書では「京坂」とまとめて呼んでいるが、記述は主として大坂を基準としている。そのため、京都の実情とは異なるところがあるかもしれない。
一、婦女ノ字、婦ハ眉ヲ剃リ歯ヲ染メタル女也。女ハ眉未ダ剃ラズ皓歯ノ娘ノコト。然モ亦婦女・美女ノ類、年齢ニ拘ラズ通用スルモアリ。文ニ依テ察セヨ。
【現代語訳】
この書で使う「婦女」という言葉について説明しておく。
「婦」とは、眉を剃り、歯を黒く染めた女性のことである。「女」とは、まだ眉を剃らず、白い歯のままでいる未婚の娘を指す。
ただし、「婦女」や「美女」などの言葉は、年齢や既婚・未婚の区別にかかわらず、広い意味で使う場合もある。どの意味で使われているかは、文章の内容に応じて判断してほしい。
一、前ニ記スル如ク、故紙ニ書キ蓄ヘシヲ後ニ集冊ス。此故ニ前日既ニ書ケル事ヲモ忘却シテ再書シ、或ハ未ダ誌サザルヲモ前ニ既ニ記セリト思ヒ誤リテ、必用ノコトヲ書キ漏ラスコトモ有ルベシ。
【現代語訳】
前にも述べたように、この書は、不要になった紙などに少しずつ書きためておき、後になって一冊にまとめたものである。
そのため、以前すでに書いたことを忘れて、もう一度書いてしまったり、反対に、まだ書いていないことを「すでに記した」と思い違い、必要な事柄を書き漏らしたりしている場合もあるだろう。
訂正セント欲スルニ、頃日賈道ニ復シテ閑暇乏シク、故ニ近時ニ夷舶再航ノ状アリテ、衆心石上ニ坐スルガ如シ。
【現代語訳】
これらを訂正したいとは思っていたが、近ごろ再び商売に戻ったため、暇がなくなってしまった。
そのうえ、近ごろは外国船が再び来航する情勢となり、人々の心は、まるで石の上に座っているかのように落ち着かない。
依テ遂ニ訂正セズ、諸財トトモニ櫃ニ納メテ川越ノ親族ニ托ス。庶幾クハ子孫之ヲ訂セヨ云々。
【現代語訳】
このような事情から、とうとう訂正を終えることができなかった。そこで、この書をほかの財産とともに櫃へ納め、川越に住む親族に預けることにした。
願わくは、子孫がこの書を訂正してくれることを望む。
嘉永六年癸丑冬 喜田川守貞述
【現代語訳】
嘉永六年(一八五三年)癸丑の冬。
喜田川守貞、記す。
追書
追書。墨夷来リテ、予等ハ戦争ノコトアラント思ヒシニ、幕府無事ヲ旨トスルニヨリ其騒ギナシ。
【現代語訳】
追記。
アメリカ船が来航したときには、戦争が起こるのではないかと思っていた。しかし、幕府が平穏無事を第一の方針としたため、そのような騒乱にはならなかった。
故ニ即時川越ヨリ復シテ追書・追考ヲ為ス。故ニ巻中癸丑後ノコトアルハ之ガ故也。
【現代語訳】
そこで、私はすぐに川越から戻り、この書への追記と内容の再検討を始めた。そのため、本書の中には、嘉永六年以後の出来事を記した箇所もある。
蓋シ此書、唯余ノ追書・追考並ニ異言ス。若シ余人筆ヲ加フルコトアラバ、朱ヲ以テシテ原筆ト混ズルコト勿レト云フ。
【現代語訳】
そもそも、この書への追記や再考、異なる説の書き込みは、すべて私自身が行ったものである。
今後、もしほかの者が文章を書き加えることがあるならば、その部分は朱書きにして、私がもともと書いた文章と混同しないようにしてほしい。
目録
巻ノ一 時勢 巻ノ二 地理 巻ノ三 家宅
巻ノ四 人事 巻ノ五 生業 巻ノ六 生業
巻ノ七 雑業 巻ノ八 貨幣 巻ノ九 男扮
巻ノ十 女扮 巻ノ十一 女扮 巻ノ十二 女扮
巻ノ十三 男服 巻ノ十四 男服 巻ノ十五 男服
巻ノ十六 女服 巻ノ十七 女服 巻ノ十八 雑服
巻ノ十九 織染 巻ノ二十 妓扮 巻ノ二十一 娼家 京坂
巻ノ二十二 娼家 江戸 巻ノ二十三 音曲 巻ノ二十四 雑劇 京坂江戸
巻ノ二十五 沐浴 巻ノ二十六 春時 巻ノ二十七 夏冬
巻ノ二十八 遊戯 巻ノ二十九 笠 巻ノ三十 傘履
【現代語訳】
目録
巻之一 時勢――世の中の動き
巻之二 地理
巻之三 家宅――住宅や建物
巻之四 人事――人々の生活や社会
巻之五 生業
巻之六 生業
巻之七 雑業――さまざまな仕事
巻之八 貨幣
巻之九 男扮――男性の髪形や身なり
巻之十 女扮――女性の髪形や身なり
巻之十一 女扮
巻之十二 女扮
巻之十三 男服
巻之十四 男服
巻之十五 男服
巻之十六 女服
巻之十七 女服
巻之十八 雑服――さまざまな服装
巻之十九 織染――織物と染物
巻之二十 妓扮――芸妓や遊女などの身なり
巻之二十一 娼家・京坂
巻之二十二 娼家・江戸
巻之二十三 音曲
巻之二十四 雑劇・京坂、江戸
巻之二十五 沐浴――入浴や風呂
巻之二十六 春時――春の行事や風俗
巻之二十七 夏冬――夏と冬の行事や風俗
巻之二十八 遊戯
巻之二十九 笠
巻之三十 傘・履物
後編目録
前集通計三十冊既成
【現代語訳】
以上、前集は合計三十冊がすでに完成している。
後編目録
巻一 食類 既成
巻二 遊戯 追補
巻三 駕車 既成
巻四 雑器
【現代語訳】
後編目録
後編巻之一 食類――食べ物。すでに完成している。
後編巻之二 遊戯の追補
後編巻之三 駕車――駕籠や車。すでに完成している。
後編巻之四 雑器――さまざまな道具
先年閑居ノ日、徒然ヲ患ヘ此書ヲ編メ。今適々繙閲スルニ、其拙キコト後悔スレドモ及バズ。
【現代語訳】
以前、隠居して暇に暮らしていたころ、退屈を紛らわせるために、この書をまとめた。
今になって、たまたま読み返してみると、その出来の拙さが気になり、後悔したものの、もはやどうしようもない。
廃シテ渋紙ニ製セント欲セシガ、又流石数年ヲ費シタルコトナレバ、百年ノ遺失ヲ思ヒナシテ再訂ヲ加フ。
【現代語訳】
いっそ廃棄して、渋紙の材料にしてしまおうとも考えた。しかし、これも長い年月を費やして作ったものである。
そこで、昔の風俗が後世に伝わらず、永久に失われてしまうことを思い直し、もう一度、訂正を加えることにした。
慶応三年卯五月
【現代語訳】
慶応三年(一八六七年)、卯の五月。




